私の名はジェイコブ一郎。
“コブ星”に住んでいる。
▲コブ星人“ジェイコブ一郎”
「頭」の毛が薄くて当たり前のコブ星に住む私にとって、人間の頭髪の量が私たちより多いことや、彼らが毛の量を気にすることが不思議でならない。
今、私はこの疑問に立ち向かうべく人間の「毛」について調べている。
今までのリサーチで、人間が毛深さで王様を決めたり、髪を呪いに使ったり、妻にカツラをプレゼントしたり奇妙な文化や歴史を知った。
今回は、平安時代に長い黒髪の女性たちはどうやって生活していたのか、そのころ世界ではどんな髪の色が流行ったのか、原住民の髪のこだわり、毛の美術品について調べてみた。
<今回分かったこと>
・《日本の平安トレンド》長い黒髪は、不便さの塊
・《西洋のトレンド》ブロンド、褐色、赤…何色の髪が得?
・原住民は、髪のお洒落に忙しい
・髪の芸術品は、国際的な常識
《日本の平安トレンド》長い黒髪は、不便さの塊
「髪は女の命」という言葉が生まれるほど、昔の日本では長い黒髪に対する気持ちが強かった。
平安時代の高貴な女性の髪型といえば、長い黒髪に「鬢そぎ(びんそぎ)」が定番だ。「鬢そぎ」は、女性の頬にかかる部分の髪を短くカットしたもので、現代では「姫カット」とも呼ばれる。
当時のインテリ女性の一人、紫式部はこの「鬢そぎ」が大好きで、髪が頬に張り付く様子を「愛らしい」と文学作品で綴っている。
女性の黒髪については諸説あるが、生活には不便があったと考えられる。
高貴な女性は、身長ほどの髪と十二単とを着て生活するのだから当然だが、犠牲を払っても、長い髪がよしとされたのだ。
髪は年1-2回しか洗わないが、それも大変だ。
夏でないと乾かないし、早く乾かしたいときは火をおこして温めるので熱い。さらに殺菌と香り付けのために、お香で髪をいぶす。とにかく面倒くさい。
睡眠時に寝グセがついたら大変なので、箱に髪の毛を入れたり、背の低い衣桁(いこう、着物を掛けておく道具)に髪の毛をかけたりと工夫していた。
何よりトイレが大変だ。
基本的にトイレは当時のオマル「樋箱(ひばこ)」だったので、部屋で済ませられるが、それでも邪魔だ。
髪を縛ったり、帯に挟んだりしながらも女官に助けてもらって用を足していた。
洗髪、睡眠、トイレ…犠牲が多くとも黒髪にこだわる文化だった。
《西洋のトレンド》ブロンド、褐色、赤…何色の髪が得?
日本で長い黒髪が愛された時代、西洋では金髪が流行していた。
理由のひとつは光り輝く太陽と黄金をイメージさせるためだ。
また、金髪は女体の柔らかい曲線にいちばん調和し、しかも白に近いため純潔を象徴するとも考えられた。
この金髪が「ブロンド」と呼ばれるようになったのは、20世紀アメリカで最も人気だったミュージックホールの美女ダンサーの多くが金髪で「ブロンド」という名称の劇団を組織していたからだと言う。
金髪は脱色によって簡単にできるため、多くの「偽りのブロンド」女性が増えた。
結果、もともとブロンド好きだったのに「ブロンドの女性は嘘つきだから、妻にするなら褐色の女性だ」と考える人も出てきた。
また、「赤毛の女性はスミレか琥珀の香りがして情熱的だ」と説を唱える学者もいた。
髪の毛は何色が良いか…それは国だけでなく時代の流れに影響されるのだ。
原住民は、髪のお洒落に忙しい
毛髪のおしゃれは日本、西洋だけではもちろんなく、原住民でも同じだ。彼らは特に男性がヘアスタイルにこだわる傾向にある。
アフリカ東部の原住民の中には、男性がお椀のような髪飾りを頭に乗せて貝殻を飾る民族がいる。
なんと、女性はみんな丸坊主で、その髪は男性の髪飾りに使われる。
ニューギニアのピアラ族の男性は、左右に50cmもの髪飾りを付ける。
自分の毛では、もちろん足りないため、死んだ親戚の髪の毛を譲り受けたりしているのだ。
フィジーでは油と炭を混ぜた整髪料を髪に練りこみ、甲羅で一本一本にクセを付け、逆立てていく。
それを赤、青、黄色などに染めていくのだ。
▲19世紀にヨーロッパ人が目撃したアフリカ人のヘアスタイル
出典:「髪の文化史」荒俣宏(潮出版社)
ゆったりと過ごしていそうな原住民たちも、髪の毛のファッションで忙しい。
髪の芸術品は、国際的な常識
髪はファッションを超えて、芸術品や愛情の表現にも使われる。
19世紀のヨーロッパでは、髪の「美術工芸品」が流行した。
この流行が生まれた元は「ラヴロック」と言われる。「愛(ラヴ)の証の一房(ロック)」を大切な人に送る風習で、宮廷「風」恋愛の象徴でもあった。
「ラヴロック」が更に発展し、愛し合う男女が、お互いの髪を組み合わせてハートの形を作ったり、髪の毛でハンカチに愛の言葉を縫いこんでプレゼントをしたりした。
バレンタインデーには、カードに髪を貼り付けたり、「ヘアリング」という髪の毛入りの指輪やブレスレットを作った。
さらに、万国博覧会では、髪だけでヴィクトリア女王とアルバート公の似顔絵を刺繍した作品が話題となった。芸術品に髪を利用することが、国際的にも「あり」とされたのだ。
【ジェイコブの気づきと疑問】
■生きるために髪がある?髪のために生きている?
昔の日本女性、長い黒髪を維持するために、用を足すのを人に見守られなくてはならなかった。現代社会では考えられない感覚ではないのか。
寝るときもずっと髪を意識している生活なんて、まるで髪のために生きているみたいだ。
■毛の色の違いはいかにして出るのか
私の住むコブ星にはブロンドヘアというものはない。髪はみんな薄いが色は濃い目だ。ブロンドだの、赤毛だの、褐色だのにこだわる人間も面白いが、どうやって色の違いが出るのか知りたいと思った。
■毛が愛をつなぐのか?
ヘアリングやヘアブレスレット…。今でも作っている人間がいるのだろうか。愛の証を毛で行うとは、真に人間は奇妙だ。毛が愛をつなぐのか…?
今回も面白かった、髪の文化。私には不思議だらけだが人間の髪の特別扱いはすごい。次はどんな毛の事実に出会えるのか。まだまだ旅は続く。
<今回の学習書>
「髪の文化史」荒俣宏(潮出版社)
Wikipedia
<過去の記事>
第1回:異星人ジェイコブの「なぜ人間は薄毛対策にこだわるのか」髪の毛の謎に迫る旅 その1 ~薄毛は男らしさ!?~
第2回:異星人ジェイコブの「なぜ人間は薄毛対策にこだわるのか」髪の毛の謎に迫る旅 その2 ~髪には神の力が宿る~
第3回:異星人ジェイコブの「なぜ人間は薄毛対策にこだわるのか」髪の毛の謎に迫る旅 その3 ~カツラは衛生的な証?~
第4回:異星人ジェイコブの「なぜ人間は薄毛対策にこだわるのか」髪の毛の謎に迫る旅 その4 ~人より髪を愛すフェチも~