筆者は芸歴10年を超えており、年齢は35歳の“売れたい芸人”である。
バイトを週にいくつもこなし、舞台に立ち続ける日々である(この原稿書きも私の立派なバイトのひとつである。ちなみに事務所には内緒である)。
今日は、芸人のもっともおいしい仕事「営業」について書こう。
圧倒的な「ワリの良さ」が営業の魅力
「営業」とは地方でのイベントでネタや司会をやったり、企業の忘年会や新年会に呼ばれてネタをやったりする仕事である。
これが、若手芸人にとってはテレビよりギャラの割がいいことが多いのだ。

知名度にもよるが、若手芸人の場合、1時間のゴールデン番組でギャラは3万円~5万円であり、深夜だと5千円~1万円が相場である。
一方、営業の場合、最低でも1本3万円~5万円は貰え、知名度と時間によっては10万円~20万円は当たり前に貰える。
テレビの場合は収録とは別の日に打ち合わせがあったり、大量のアンケートを書く時間があったり、さらに撮影……と放送時間以上に時間が取られる。事務所の取り分なども考えれば、時給換算はとても考えたくないレベルになる。
営業の場合、事前打ち合わせはあるが、本番前に少しだけのことが多く、本番は持ち時間の15分~1時間くらいで終わりである。
(知名度があってこそであるが)ヤバ旨い仕事なのだ。
それでは、どんな芸人が営業に呼ばれやすいのだろうか。年間200本もの営業をこなし“トップ営業芸人”と言われる「テツandトモ」を見てみると、営業に強い芸人がどんな芸人かがわかる。

※写真はテツandトモオフィシャルブログ(https://lineblog.me/tetsu_and_tomo/)からのスクリーンショット
まず第一に「知名度」。
イベントなどに芸人を呼ぶのは客寄せであるので、その芸人に集客力がないといけない。そのためにはやはりある程度の知名度が必要なのである。テレビでレギュラー番組を何本も持っている芸人は知名度はあるがスケジュールの確保が難しいので営業に呼べない。そこで当てはまるのがテツandトモなのである。
そして「子どもに人気」。
子どもがお客さんとしてイベントに来れば親も着いてくる。イベント主催者にとってこんないい手はないのだ。そして子どもにもわかりやすく、まねをしやすいリズムネタは営業に強い。
さらに「盛り上げ方のうまさ」
テツandトモはイベントの盛り上げ方が上手い。テレビでは「何でだろう~♪」のネタが主であるが、営業ではその地方にしかないお店や観光名所などの地方ネタを入れている。
他の芸人でもその地方の名産をネタに組み込んだり、地元あるあるで笑いを取っていたりしているのを見たことがあるが、その日一番の盛り上がりになっていた。
盛り上げ方が上手いと主催者はまた来年呼ぼうということになり、さらに口コミで周りにも広がっていくのである。
人気の営業芸人は次の年に呼ばれたときに同じネタは避けるように、どのイベントでどんなネタをやったのかを必ずメモっているという。
結局「いろいろできて面白いやつ」が愛される
「アドリブ力」も重要だ。
コント芸人より漫才芸人の方が営業に呼ばれやすい傾向がある。漫才の方がアドリブでのお客さんとの掛け合いができてイベントが盛り上がるからだ。さらに漫才だと客いじりでつかみやすく営業に向いている。
「引き出しの多さ」も利いてくる。
テレビではやらないようなネタを披露する芸人も営業に呼ばれやすい。
「テレビでやれないような過激なネタ」ではなく(それをやってしまうスレスレの芸人はいくら面白くても地方の自治体等にはまず呼ばれない……が、夜の街等ではけっこう需要があったりもする)、普段のネタとはまた一味違ったネタを披露すると新鮮さがあり、主催者にも好評なのである。
引き出しの多さで言えば、ものまね芸人も営業に強い。
大御所や有名人を呼ぶとギャラが何百万とかかってしまうが、ものまね芸人だと1人分のギャラで何人分もの多彩な芸を一気に見ることができ、本物より盛り上がることすらある。
お客さんとしてもたくさんの超大物有名人を見た気になり、お得感があるのだ。
また、ものまね芸人はものまねをする人の数によって時間調整ができ、営業の尺に簡単に合わせることができるので重宝される。
「営業」で、未来のスターが見られるかも?
さあ、これで営業のすばらしさがわかってもらえただろうか。
わかってもらうためにもう少し言わせていただくと、
実は、お客にとっても芸人の地方営業にはメリットがある。
営業にはある程度人気がある芸人が呼ばれるが、事務所はその時売り出そうとしている若手芸人をバーターで出演させてもらえるように主催者と話し合うこともある。
なのでイベントに行くと将来人気になるかもしれない若手芸人を間近で見られるかもしれない。
また、会場が盛り上がってくると芸人もテンションが上がり、テレビでは話せないような裏話をすることもある。近くのイベント会場に芸人が来る場合一度足を運んでみるのもいいかもしれない。
あー、営業の仕事来ねえかな〜!