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価値観 2019.01.18

世界を変える人が拓く道 ~【大平 貴之】星空の可能性を無限にする~

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昨年(2018年)12月に発表された、“前人未到”の超大型ドームに対応するプラネタリウム投影機「GIGANIUM(ギガニウム、仮称)」をご存知だろうか。(公開は2019年内を予定)

 

この投影機は、従来のプラネタリウムに比較して投影出力は1000倍、照らせるドームの広さは直径10倍以上の500m級を実現したものだ。(既存のものは大型でドーム直径20m、世界最大でも直径35m程度だった。)

 

その巨大さは、東京ドーム、ピラミッドの高さと比較した下の図でよく分かるだろう。

 

▼GIGANIUM投影可能ドーム直径と主要建造物との比較図

 

これを実現する技術もすごいが、楽しみなのはこの技術で将来できる可能性だ。

 

小さな科学館でしか見られなかった星空が、東京ドームどころかもっと大きいイベント会場でも見られるし、屋外のプロジェクションマッピングなどに活用できるのでテーマパークでも生かすことができる。

 

プラネタリウムの楽しみ方が大きく変わり、大規模なエンターテイメントとの融合ができるのだ。

 

▼大平 貴之氏 ©SEGA TOYS

 

これを作ったのは、大平貴之氏が設立し、代表を務める大平技研だ。

 

「GIGANIUM」の公式発表と同時期に特集された『情熱大陸』(MBS)では大平氏が登場し、巨大ドームを生み出す様子が映し出された。

 

この既存の規模を大きく上回る発表、幼い頃からプラネタリウムが好きだった私は、理屈抜きにわくわくする。東京ドームの天井だって相当高く見えるのに、その何倍も高い場所に星が投影されるのだ。

 

昼間だって、都心のようなネオンだらけの場所にいたって、何万人もの人と一緒に星空を眺められるのだから凄い。

 

▼白金にあるプラネタリウムBAR

実際にこの星を見ながらお酒を飲んだことがあるが、なんとも繊細にできている。

 

大平氏はフリーでクリエイターの時代、投影星数560万個という世界最多の星が投影できる「メガスターII cosmos」を開発し、ギネスワールドレコーズに認定されたことで知られる。

 

肉眼で見えない星までを投影することで本物の星空に近づける・・・そんな考えのもと、自宅の七畳一間でたった一人で製作したという。

 

彼が人々の想像を超えるプラネタリウムを開発し続ける原動力は何なのだろうか。星の世界を広げる彼の力の源について考えてみたい。

 

 

桁違いでリアルな星空を生み出したメガスター

プラネタリウムって素敵だ。

真っ暗なドームの中で星が映し出されるのを待つ時間は、何歳になってもドキドキする。

 

星が綺麗というだけではなく、異次元に連れていかれたような、本物の星空を見るのと同じように自分のちっぽけさや自然の偉大さを示されたような・・・そんな複雑な気持ちが楽しい。

 

 

よく行っていた渋谷の「天文博物館五島プラネタリウム」が2001年に閉館した時は、とてもがっかりしたのを覚えている。癒しの場がなくなってしまったので寂しかった。

 

しかしその3年後、世界ギネスに認定された大平氏の「メガスターII cosmos」が日本科学未来館で公開された。私は公開されてすぐに宇宙未来館に足を運んだのだが、それを見た時は衝撃を受けた。

 

今までのプラネタリウムと全然違うリアル感。本物を見ているかのような映像。

 

プラネタリウムの常識を一気に塗り替えるものだった。

 

▼宇宙未来館「メガスターII cosmos」

 

私は「大平さんって、凄い!」と感激したのだが、今回の500m級ドーム型を投影可能にした技術の発表には、それに負けないほどの興奮を覚える。

 

 

“可能”を信じぬく純粋な力

そんな彼の凄さを感じるエピソードが幾つかある。

 

幼い頃は「服を脱いだら片づける」「食べ物をこぼさないで食べる」という、いわゆる普通の事が苦手だったが、理科実験へののめり込み方は半端なく、薬局で無理やり手に入れた薬剤を使って家で科学実験をしていたそうだ。

 

 

その中で、彼を虜にしたのが宇宙や空だ。

 

9歳の時、自分の部屋の壁に夜光塗料を塗って星空を作り、親、親戚、友人を呼んで上映会をしていた。喜んでもらえたのは良いが、星が動かないことがつまらなくて、ボール紙に穴をあけて中心の光源から星を映せるようにした。それでも綺麗さに欠けると思ってたくさんのレンズを使った投影機を作ると心に決めたそうだ。

 

▼模索する中で、小学生のころに組み立てた本の付録のプラネタリウム(Z会「さぽナビ」より)

 

大人たちは彼に「素人でそんなものを作った人はいないし、無理だ」と言ったそうだが・・・

「皆はそう言うけど、できるはず」

そう考えた彼は、レンズ工場に片っ端から電話して、レンズを大量に分けてくれる会社を見つけプラネタリウムを作った。

 

小学生とは思えないハイレベルのチャレンジだ。

 

▼小学校6年生の時にかいた光学式プラネタリウムの設計図。小学生が描くものとは思えない。(Z会「さぽナビ」より)

 

お金や技術不足で、なかなか完成しなかったレンズ式のプラネタリウムだが、彼は諦めずに大学までプラネタリウムを作り続けた。

 

専門家には「無理だ」と言われて……、でもどうしてもレンズ投影式プラネタリウムを作りたい、できないはずがない、と思いました。結局1年間大学を休学しまして、その甲斐があってレンズ投影式プラネタリウムが完成したんです。

(Z会「さぽナビ」インタビュー)

 

製作費は約250万円。プラネタリウムを作るために休学をしてアルバイトをし、それで個人では製作不可能と言われたプラネタリウムを完成させてしまったのだから、すごい執念だ。

 

▼大学時代に完成させたプラネタリウム「アストロライナー」(公式ページより)

 

そこから大手メーカー就職、フリーのクリエイター、現在の大平技研と彼の人生は続くが、常に「もっと面白い、美しいプラネタリウムを作って皆をビックリさせる」と、どんどん凄いプラネタリウムを生み出し続けている。

 

周りが「無理だ」と言っても彼には関係ない。

 

「できる」を信じて純粋に続ける力が彼にはある。彼の世界観は人の既成の概念では狭められない。むしろ「驚かせてやる」という考えが彼の発想力を広げているように思う。

 

 

宇宙のスケールを体感する意味

それでは彼が感じている遣り甲斐はどこにあるのだろうか。

 

星空を見ることにどんな意味があるかをよく考えるんです。端的に言うと、宇宙の大きなスケールを知ってもらうことは社会にとって大事である、ということなんですが。(中略)宇宙の中の地球に僕らが住んでいる――その感覚を、そういう現実を、世の中の人に知ってもらうことはとても大事だと思うんです。授業のような形式ではなく、身体で知ってもらう。

(Z会「さぽナビ」インタビュー)

 

これはまさに私がプラネタリウムを好きな理由の一つだ。

 

都心にいると世界のこと、それ以上に大きい宇宙のことなんて考えない時間がほとんどだ。都心の生活に慣れてしまった人たちが、プラネタリウムで感じることは少なくない。

 

▼聖路加国際病院での投影会。繊細かつ小型の投影機なら、どこでもプラネタリウムになってしまう。

 

そして、彼のプラネタリウムに対する熱は小学校の時と変わらない。変わったのは、見てくれる人が増えたことと、それでさらに感じる責任感と醍醐味だけだ。

 

「好きなものを仕事にすると、好きでなくなってしまう」「仕事には2番目に好きなものをした方が良い」などという人もいるが、果たしてそうだろうか。それはお金にしなきゃ、稼がなきゃという気持ちからかもしれない。

 

彼のように純粋に好きなもの「だけ」を追い続けているのであれば、一番好きなものをやり続ける事が幸せなのかもしれない。

 

 

人間は可能は証明できるが不可能は証明できない

彼は信条として、こんな言葉をよく言っている。

人間は、可能は証明できるが不可能は証明できない。

 

彼の生き方そのものを表したような言葉だ。こんなに純粋に「可能」をひたむきに信じられる人はなかなかいない。この「可能」を疑わない純粋な思いが今、多くの人を感動させている。

 

プラネタリウムの可能性はどんどん広がっている。

大平技研は大きなドームに投影できる機器の開発だけでなく、VRと共同で取り組みをしたり、JAXAと契約をして最新の情報を取り入れたりと世界をまたいで色々なことに挑戦している。

 

これからも想像を超えるすごいモノを生み出してくれるだろう。

私はまず、今年公開されるという巨大ドームの星空を見に行きたい。

 

Nancy

この記事を書いた人

Nancy

ライター、PRプランナー。 日経BP社「IT pro」のスマートフォン特集、事業会社のトレンドビジネス特集、インタビュー記事など「社会トレンド」「ビジネス」「マーケティング」分野の連載・執筆を担当。 趣味は写真撮影、ビジネス動向ウォッチ、観葉植物を育てること。

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