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価値観 2018.12.05

世界を変える人が拓く道 ~【井上尚弥】「1+1=100」にした親子の絆と信頼関係~

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今や、ボクシングにまったく興味がない人でも知っている井上尚弥選手。今年10月はじめに開催されたワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)1回戦で、世界戦では日本選手最速となる70秒でKO勝利を果たした姿に、驚いた人も少なくない。

 

彼は高校時代、高校生初のアマチュア7冠を達成。プロ入り後も勢いを止めることなく、世界王者、階級制覇などを達成している。

 

(c)産経新聞

 

なぜ彼は圧倒的に強くなったのか。

その強さの理由について様々な意見があるが、個人的に注目しているのは「一心同体とも言える父との信頼関係」だ。

 

ボクシングはリングの上では一人であるものの、一人で戦っているわけではない。練習をする仲間、ジムのメンバー、コーチなどの仲間と、つまりチームで戦う競技だ。

 

チームの強さで一番重要なことの一つが「信頼関係」。

私はビジネス領域の人間だが、たくさんの会社とお付き合いをする中「1+1=0.5」にしかならないチームから、「1+1=10」チームまでを見てきた。

 

このチームの強さの差は、いるメンバーのスキルや経験よりも「お互いの信頼関係」と相関している。

 

 

仲間を心の底から信頼しているか?

同じ方向に向かっているか?

尊重しあっているか?

 

スポーツでも、ビジネスでも、目的を同じくし、お互いの人格を尊重するような「信頼関係」が強いチームこそ「1+1=10」。更に「1+1=100」の奇跡を生み出せるのだと思う。

 

そんな視点でみると、井上尚弥選手と、コーチであり父である真吾さんの信頼関係は理想的すぎる。彼らの信頼関係がどのように生まれ、育まれてきたのかを見ていきたい。

 

「ボクシングに嘘をつかない」ことを誓い合った仲

「試合中は自分の意思が3割、父の指示が7割」

これは、井上選手がインタビューで何気なく言った一言だ。

 

この言葉だけでも、井上選手にとって父がどれだけ大きな存在なのかが分かる。

 

そして、父 真吾さんも、「ボクシングは(尚弥と)一緒に積み上げてきたもの」「リングの上でも、尚弥の意思と(父であり、トレーナーである)自分の考えに違いはない(ベネッセ社インタビューより)」と語っている。

 

チームである父と子は、お互いに相手が「一心同体である」ことが当たり前になっているのだ。

 

(c)BuzzPress

 

二人がボクシングを通じて信頼関係を築き上げるスタートは、真吾さんが友人の紹介で始めたボクシングジムに遡ると言う。最初はボクシングジムに通っていた真吾さんだが、家族との時間を削られるのが非常に嫌で自宅でトレーニングをするようになった。

 

そんな父が家で黙々と汗を流す姿を見て、当時小学校1年生だった井上尚弥選手の心が揺さぶられた。

 

(尚弥選手)僕もボクシングがしたい…!

 

(父 真吾)父さんはボクシングに嘘をつきたくないから一生懸命にやっているんだ。お前も、ボクシングに嘘をつかないと約束できるか。どんなに辛くてもがんばり通せるか。

 

こうして、二人は「ボクシングに嘘をつかない」ことを誓い合った。

 

このスタートで既に、二人は同じ方向を向いている。

 

「嘘をつかない」ということは、サボらない、常に全力を尽くす、真摯に向き合う、ということ。このスタート時点で「お互いに絶対守り通す」と誓い合っているからこそ、信頼関係が生まれたはずだ。

 

 

徹底的に「一緒にやる」ことの強さ

ここから二人の生活は二人三脚で、厳しいトレーニングを徹底的に「一緒に」やった。

 

 

「一緒に」やるのは、二人が「ボクシングに嘘をつかない」ことを誓い合った仲だから。

もし、父が「疲れたから」と言って手を抜いたりしたら、尚弥選手も何かと理由をつけて手を抜いてしまうだろう。

 

相手も貫き通すから、自分も貫き通す。それが続けば信頼関係は厚くなるものだ。

 

逆に片方が約束を破れば、もう片方もあっという間に破いてしまう・・・お互いに意思が固くない限りはすぐになくなってしまうものなのだ。

 

それを父 真吾さんは知っていたのだろう。

真吾さんは年齢を重ねて体力が落ち、一緒に練習するのがきつくなっても手を抜かずにトレーニングをした。坂道ダッシュで足の裏の皮がめくれることがあっても、それでも走った。

 

こんな二人の強い絆が、井上尚弥選手の強さのベースとなっていることに違いない。

 

社会を見てみたらどうだろうか。

手を抜く上司を見て、部下も手の抜き方を覚える。そんな光景ばかりの中、この二人から学ぶ事は多いはずだ。

 

 

「信頼関係」が続く生き方

このように同じ志を持って、お互いに「ボクシングに嘘をつかない」と誓った父子だが、普通に考えたら「人間たまにはできないこともある」と開き直ってしまうはず。

 

それでも、この父子がブレないのは「信頼関係が続く生き方」そのものにあると思う。真吾さんが尚弥選手と共有した「生きる中で曲げない方針」は、このようなものだ。

 

■当然のことを、しっかり守る

「嘘をつかない」

「約束を守る」

「挨拶をきちんとする」

「間違ったことをしたらすぐに謝る」

 

人間として当然のことを、きちんとやりきる。これを、子供に教えるだけでなく真吾さん自身も貫いている。親だからといって恥ずかしがらずに失敗談を話したり、子供に対しても謝るべきことは謝ったり。その姿勢を見ているからこそ、尚弥選手も“やるべきことをやる”ように育った。

 

(c)ダイヤモンド

 

基本的なことを徹底してやる人は、やはり信頼できる。付き合っていて、裏切らない、嘘をつかないなど不安がないため、「人間として尊重しあう」ことのベースとなる。

そしてこの基本的なことを徹底的している親子こそ、彼らなのだ。

 

■言い訳をしない

この信念は「ボクシングに嘘をつかない」に直接通じるものがある。「嘘をつかない」は、ほぼ「言い訳をしない」「逃げない」ことに等しいからだ。

 

“言い訳言葉”の「でも」、「だって」を使うという時、人間は「逃げ」の姿勢になっている。事実を受け止められていれば、どうしようか考えるはず。

 

ボクシングも同じで、真正面から向かっていれば、「できなくて悔しい!」「思い通りにできずに挫けそうだ!」となっても、「何故そうなったのか」「次にどうすればよいか」を考えることができるから、次の世界が見えてくる。

 

象徴的なのは、尚弥選手がボクシング中、相手に殴られた瞬間も目を開けていること。集中していたら、殴られても相手を見ているはずだという理由からだ。また、この集中力がなくなると真吾さんに叱られるそうだ。この二人からすると集中力が切れたことを理由に、見るべきものを見ていないことは「甘え」であり「言い訳」なのだ。

 

二人は言い訳を使うことがないし、言い訳を使わない相手を尊重している。その尊重の念が、彼らの信頼関係を強固にしているはずだ。

 

■人格を尊重しあう

真吾さんは基本的に、子供の人格を尊重している。

 

子供を叱る時も全否定せず、上から目線でもモノを言わない。圧力的なことは絶対にしない。本人がどうやったら納得するのか…基本的には本人の意思を尊重する。

 

 

これは信頼関係を築く・続かせる中で本当に大事なこと。

 

ビジネスシーンで、上から目線で部下に接しているがために信頼を失っている上司がどれほどいることか。(たいていの場合、上司である本人は信頼をなくしていることに気がついていないが・・・。)上司、部下の関係と、人としての上下はまったく関係ないのに、なぜか偉そうにしてみたくなるのが人の性。

 

相手の人格を尊重し合える彼らのような関係でしか、信頼関係は成り立たない。

 

 

親の“愛と信頼関係”が生み出した世界チャンピオン

父親に影響を受けてずっと一緒にボクシングを続けてきた井上尚弥選手。今までの人生を想像すると、この親子の絆はどこまでも深い。

 

(c)BuzzPress

 

井上選手にとっては、父は自分の半身であろうし、「人生のパートナー」と呼ぶのにも浅すぎるぐらいの存在だ。そして、その間には一緒に人生の夢・目的を共有し、誓い合ったからこそ成り立つ信頼関係がある。

 

「ボクシングに嘘をつかない」

この2人こそは「1+1=100」の奇跡を起こしはじめた、強い信頼関係のチームなのではないだろうか。

 

 

Nancy

この記事を書いた人

Nancy

ライター、PRプランナー。 日経BP社「IT pro」のスマートフォン特集、事業会社のトレンドビジネス特集、インタビュー記事など「社会トレンド」「ビジネス」「マーケティング」分野の連載・執筆を担当。 趣味は写真撮影、ビジネス動向ウォッチ、観葉植物を育てること。

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