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価値観 2018.10.29

世界を変える人が拓く道 ~【インスタグラム(後編)】フェイズブックとの共存と決別の選択〜

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SNSの中でも認知度、アクティブユーザー数、広告出稿量などどんな基準で見てもトップレベルのインスタグラム。

 

栄光を勝ち得た、まるでアメリカンドリームのような世界をイメージする人もいるかも知れない。

 

実際にそんな要素もあったかもしれない。ただ、ここに出てくるインスタグラムの創業者シストロム氏は、贅沢もしない、威張ることもしない謙虚に「社会に価値を生み出そう」とする、イノベーターだ。

 

前回は、このインスタグラムというサービスが生まれるまでに、シストロム氏のどんな人間性が重要だったのか、そして生まれるまでに何があったのかに焦点を当てた。

 

今回は、フェイスブックの買収劇と2018年9月24日に創業者2名が辞任したことに焦点を当てる。インスタグラムが絶好調の時期になぜ二人が去るにいたったのか、背景や理由を考えたい。

 

©bloomberg経由のinstagram

 

「社員数13名・売上高ゼロ」企業が10億ドル!?

前回の失敗例から学んだインスタグラムは、真のユーザーの行動・心理にしっかりと焦点を当てた。

「イメージではダメ、本当のユーザーは何なのか」をしっかり見つめたSNSはどんどん伸びた。

 

売り上げは度外視だったが…。

 

 

ユーザー量で急成長を見せるインスタグラムは、投資・買収目線でも話題となり、フェイスブックやグーグルによる買収予想が何度も浮上した。

 

シストロム氏は簡単には首を縦に振らなかったと言う。

まだ出来立てのサービスなので、自分でしっかり育てたいという思いもあっただろう。仲間の反対もあっただろう。

 

ただ、フェイスブックから「当時としては」破格の条件(10億ドルの現金と株式)を提示されてしまった。シストロム氏とフェイスブックCEOザッカーバーグ氏が顔見知りだったことも理由のひとつかもしれないが、結果として買収の提案を受け入れた。

 

「当時としては」と言ったのは、インスタグラムはユーザー数を獲得して急成長していたものの、「設立から2年」「社員13人」「売上高ゼロ」だったため、10億ドルは高すぎと評価されていたためだ。確かに、将来性が不透明な中でこの条件の企業を買うには、相当高値だとも言える。

 

© AP/AFLO

 

しかし、ザッカーバーグ氏は違った。彼はインスタグラムがどこまで価値があるのか見抜いていたのかもしれない。もしくは、自身の勘や創業メンバーを強く信じたのかもしれない。

 

彼は、それまでのM&A(合併・買収)で最大の金額をつぎ込んだ。ザッカーバーグ氏は「これほどの利用者を持つ企業を買収するのは初めて」と規模、成長スピード、なにより将来性を評価している。

 

この期待は予想以上に当たり、今では100倍(1000億ドル)の価値があるとも言われているので、フェイスブックはとびきり安い買い物をしたと思う。

 

一方で、こんな話もある。

シストロム氏は謙虚で思いを大切にする。一方で、一部利己主義的な面が必要なスピーチが苦手だったり、お人好しすぎて騙される気もあると言うのだ。

共同創業者のマイク・クリーガーはインスタグラムをフェイスブックに売る時期が早すぎたのは、その性格からだとも言っている。

 

 

お互いに良きパートナーとして「クールなものをつくる」

買収された時点でフェイスブックがインスタグラムの舵取りをしてしまって、ひずみが生じるのでは?と思う人も少なくない。

 

しかし実際は、創業者のシストロム氏もクリーガー氏も「フェイスブックが上にいれば、法的手続き、インフラ整備、運用など面倒な仕事が減り、自分たちがサービス作りに専念しやすい」と思っていたと言われる。

 

シストロム氏のお人好しな性格もあってかもしれない。

 

さらに、フェイスブックはインスタグラムを独立した事業部として存続させたので、独自性が保たれたと言う。シストロム氏の「マーク(・ザッカーバーグ)とはうまくやっていた。一緒にクールなものをつくりたいという、とにかくそれだけだったよ。」という言葉からもそれが分かる。

 

©facebook

 

辞任の理由はどこにあるのか

そこからのインスタグラムの成長は、誰もが知るほどすさまじかった。創業者2人を中心にインスタグラムの世界観を創る、それをフェイスブックの儲ける力/育てる力で伸ばす。この構造はぴったりはまったと思う。

 

しかし、突然のシストロム氏もクリーガー氏の辞任となった。

こちらが、公開された辞任のあいさつ文だ。

 

13人でスタートした会社も今では世界中にオフィスを構え、1,000人以上が働く立派な企業です。そのプロダクトは10億人を超える方々に利用され、愛されています。もう心残りなく次の人生に進んでいけます。

 

しばらく休業し、もう一度、知的好奇心とクリエイティビティを取り戻したいと思っています。新しいものをつくるためには一歩立ち止まって、僕らをインスパイアするものが何なのかをよく考え、それが本当に世界に求められていることなのかどうかすり合わせる必要があります。そんなことをしていく予定です。

 

これからは経営を退きユーザー10億人の側になりますが、InstagramとFacebookはイノベーティブですばらしい会社です。発展を楽しみに見守っていきたいと思います。

 

(文章の翻訳はGIZMOODより)

 

このあいさつ文にザッカーバーグ氏の名前が一言も触れられていないことでも、辞任の理由について様々な憶測が出ている。周辺情報を含めると、こんな理由があるのではないだろうか。

※個人的な意見です。

 

①彼らにとって都合の良いタイミングだった

サービスを波に乗らせたし、ユーザーが多く盛り上がっているタイミングで身を引くのは都合が良い。他の事に取り組むには絶好のチャンスだという考えもゼロではなかったのでは…。

 

②フェイスブックと方向性の違いが大きくなった

フェイスブックはやはり「ビジネス」として運営を軸に考える。インスタグラムの広告は多くなったし、ユーザーの連動を進めており「拡大至上主義」とも言える。ユーザーが喜ぶ独自サービスを目指す彼らとズレが生じたとも考えられる。確かに、最近のインスタグラムはユーザーを増やしながらも、「昔と変わってしまって嫌」という旧ユーザーの声も聞かれる。

 

シストロム氏のあいさつ文の「知的好奇心とクリエイティビティを取り戻したいと思っています。」は、フェイスブックではこれができない環境になったとも読める。

 

③独自性が尊重されなくなった

当時は自由にやらせていてくれたのに、時間がたつにつれてフェイスブックがコントロールするようになってしまった。更に、皮肉なことに現在フェイスブックの広告収入で欠かせなくなってしまったのは買収されたインスタグラムだ。そのため、フェイスブックが躍起になって口を出してくることが増えてきたと言う。

 

原因は1つではないと思うが、どれもありえる。特に②、③は、スタートアップの買収劇の「あるある」なので、驚くことではない。企業は生き物。トップが異なれば、目的や意思が完全一致なんていうことは、まずないのだから。

 

私が考える、二人(シストロム氏とザッカーバーグ氏)のすれ違いポイントは明らかだ。

 

もともとシストロム氏は利益追求に興味がない。

むしろ職人や芸術家の気持ちを起点にして、さらに価値をパンッと弾けさせスケールさせるタイプだ。

 

一方で、ザッカーバーグ氏は、何かに思いを持って作り上げるより、「組織をどう生かすか」「現代社会でどう影響力を存続させるか」などスケールや存続にこだわりがあるし、経験値もある

 

2者のコラボは芸術的で、今までありえないほどの成長を促したが、ある意味、両極端にいる彼らは別れの時が来たのだ。

 

 

彼らの「真の価値の追求」に期待

買収元とのズレを感じて離別したにせよ、一度はフェイスブックを信頼し、一緒に歩んでみたという事実が本当なら、両社が存在したからこそ現在のインスタグラムがある。

 

この事実は、誰にも否定できない。

 

© ITmedia, Inc.

 

スタンフォード卒業後にわざわざ写真を学び、写真に敬意を払いながらサービスを開発した。そんなシストロム氏の行動からは「ビジネスを成功させたい」という思い以上に、愛や情熱を感じる。

「僕らをインスパイアするものが何なのかをよく考え、それが本当に世界に求められていることなのかどうかすり合わせる必要があります。」

この言葉から、彼らが拡大至上主義でも、儲け至上主義でもなく、真の価値の追求者であることを強く感じる。

 

FBとの離別が円満だったのか、もしくは裏で様々な事情があったのかは分からない。しかし言い切れるのは、このような情熱を形にできるチームはなかなかいないということだ。この二人が今後どんな価値を社会に生み出していくのか今後に大いに期待したい。

 

 

前編はこちら

 

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Nancy

この記事を書いた人

Nancy

ライター、PRプランナー。 日経BP社「IT pro」のスマートフォン特集、事業会社のトレンドビジネス特集、インタビュー記事など「社会トレンド」「ビジネス」「マーケティング」分野の連載・執筆を担当。 趣味は写真撮影、ビジネス動向ウォッチ、観葉植物を育てること。

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